Vol.59 鬼に金棒、前鬼の修行
古道を歩くシリーズV・大峯奥駈道          04.8.25訪問/9.15掲載
 「前鬼」は、奈良県南東部、紀伊山地の奥にあります。修験道の開祖・役行者につき従った夫婦の鬼、前鬼・後鬼の名前に由来する山里。1軒だけの宿坊は、住職の名前も五鬼助さんです。
 ここは鬼の里。ただならぬ雰囲気です。大峯奥駈道の裏行場での修行に期待と不安が高まり、ゾクゾクしました。
 
 朝、かすみの中から山の姿が見え始めたころ、出発しました。私の前後に知人の山伏さん2人が付いてくれました。「鬼に金棒」なのですが、台風の影響で、道なき道を行く厳しい修行が待ち受けていたのでした。
 すぐに直面したのは、土砂崩れです。完全に道が流されていました。それでも先導役の山伏は、斜面にはいつくばりながら、小さな隙間に足場を確保し、注意深く進んでゆきます。道がないのはここだけではありません。外れた橋、岩だらけの道……。すると突然、ぬかるんだ斜面で、後ろの山伏が足を滑らせました! 冷や汗をかきましたが、木の枝1本につかまって事なきを得ました。
 不思議と、私は、引き返そうとは思いませんでした。急斜面に木の枝などが堆積しただけの道や、鎖を頼りに登る垂直の岩場。試練を一つずつクリアしていきます。その先にあったのは……天から流れ落ちる羽衣のような滝、三重
(みかさね)の滝でした。今までの疲れがリセットされ、新たなパワーが一気にチャージされます。透き通る川の水をゴクリ。自然の恵みを体感しました。

 よくあの険しい道を、行って帰ってこられたな、と驚くばかりです。
 さすがは鬼の山、恐るべし。ヒルにかまれた傷がかゆくなるだびに、修行の日のことを思い出します。
写真上から)三重の滝とみとー/前鬼の一軒宿/裏行場の険しい崖と山伏