Vol.57 近畿の頂 八経ケ岳に立つ
古道を歩くシリーズU・大峯奥駈道          04.8.14訪問/8.23掲載
 大峰山脈は、修験道の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が1300年前に修行した地。弥山(みせん)、釈迦ヶ岳、仏生ヶ岳……。山の名前からも分かるように、山脈全体が聖地なのです。その中にそびえる近畿最高峰、八経(はっきょう)ヶ岳(1914m)に登りました。役行者が八つの経典を埋めた伝説が残る山です。

 天川村の行者還トンネル西口の駐車場から、大峰山脈の尾根を走る世界遺産の大峯奥駈道(おくがけみち)を目指します。ここが一番の難関。しっかりしたトレイルはなく、急斜面の上、石がむき出しのでこぼこ道。木の根っこが足場でした。
 1時間すると、山の稜線が見えてきました。ここが大峯奥駈道です。1時間ほどは平坦な道が続き、ふと気がつくと、澄み渡った青空にブナの木々が映え、耳を澄ますと、森を揺らす風の音だけが聞こえてきます。完全に日常を離れた世界でした。
 日本の山の中には過剰に道が整備され、自然なのに人工的な所もあります。しかし、ここは違います。道には、これまで先人が踏み固めてきた確かな足跡を感じます。手つかずの森の静けさがあります。それは、ここが修験道として守られてきたからなのです。

 
 再び急斜面を50分登り、弥山に到着。さらに30分。雲に手が届きそうな所まできたら、もう八経ヶ岳です。「やったー!」。今までの苦しさが一気に吹き飛びました。頂上からは、重なり合った山々が眼下に見え、無数の赤とんぼが次々と空に飛び出していきました。聖なる森の静けさが永遠に続くことを願って、山頂に立つ塔婆の前で手を合わせました。
 奥駈道は、この先もずっと、熊野まで続いています。
写真上から)八経ヶ岳山頂のみとー/大峯奥駈道と八経ヶ岳/八経ヶ岳から望む山並み