Vol.55 天川の聖と性 04.8.8訪問/8.16掲載
 天川(てんかわ)は、吉野のさらに南奥、360度を山々に囲まれた小さな村です。村の東側の大峰山脈沿いに世界遺産の「紀伊山地の霊場と参詣道」の一つ、大峯奥駈道(おくがけみち)が通っています。急峻な山を覆う杉の木々が、山を大切にしながら暮らしてきた人々の歴史を物語っています。

 まず天ノ川
(てんのかわ)沿いにある天河弁財天社へ。本殿に能舞台があり、芸能の神様として知られています。以前ここで聞いた鼓の演奏は、一つ一つの音が森に吸い込まれていくように広がり、神聖さと美しさに聞き入ってしまいました。隣の席の92歳のおばあちゃんが「私は、ずーっとここに暮らして、毎日、手を合わせとる」と話していました。そして今日は、山伏たちがお経を唱えています。この神聖な空気は、信仰の深さが作り出したものなのです。
 次に、天ノ川の上流、御手洗
(みたらい)渓谷を訪れました。谷間には階段状に滝がいくつもあり、数日前の台風の影響で、轟音を立てながらすさまじい勢いで水が流れています。しぶきを浴びて、周囲の緑は青々とし、マイナスイオンいっぱいの中を気持ちよく歩きました。

 大峯奥駈道上にある修験道の聖地、山上ヶ岳。登山口の大峰大橋には「女人結界」の碑が立っています。結界の門では、大人から子供まで次々と男性たちが行き来していました。山上ヶ岳には世界遺産の大峯山寺もありますが、「宗教上の伝統」として、女性は入れないのです。
 修験道への信仰や入山したいという気持ちに、男女の違いはあるのでしょうか? 冷たく無機質に立つ石の結界には疑問を感じました。
写真上から)御手洗渓谷の滝とみとー/天河弁財天社/大峰山に向かう大峰大橋の結界門