Vol.82 今井町、江戸時代に迷う
05.2.12訪問/2.18掲載
 「私たちは、ここに住んで、この町を守っているんですよ」
 江戸時代の町並みが残る橿原市今井町で酒屋を営むおばさんの言葉です。
 今井町のルーツは、室町時代に一向宗の称念寺を中心に広がった寺内町です。織田信長に攻められましたが、江戸時代は商人の町として巨万の富を築きました。今でも600棟が軒を並べ、6割は当時の面影を残しています。「重要伝統的建造物群保存地区」に指定され、8軒の民家は重要文化財です。

 狭い路地に入ると、格子窓に白壁、瓦屋根の家並みが現れました。クリーム色の道、電柱の地中化と、景観に配慮した町づくりがうかがえます。でも、休日というのに人はまばら。さながら時代劇のセットのようですが、決定的に違うのは、実際に人が暮らしているということです。
 酒造りをしていた高木家(重文)を見学しました。建造は幕末、吹き抜けの高い天井をもつ土間、段差がなく襖だけで仕切られた和室が特徴です。家の方が、家の歴史を誇らしげに説明してくれました。

 
 細い路地の御堂筋をいくと、称念寺(重文)が見えてきました。壁が剥がれ、波打つ屋根は、戦国時代を生き抜いてきた証です。向かいの無料休憩所で、ボランティアガイドの男性が、これまた歴史を優しく語ってくれました。旧米谷家(重文)でも、町家を復元した「今井まちや館」でも、ここで会う人は、だれもがガイドさんです。
 これだけの町並みを残せたのは、自分の町に誇りを持つ多くの人がいたからこそなんです。気がつくと、日は傾き、狭い路地はどこも日陰になっていました。
(写真 上から)今井町の本町筋を歩くみとー/今西家(重要文化財)/高木家の内部