Vol.77 嵯峨野、あぁ風流なり
04.12.3訪問/12.29掲載
 「小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ」
 現代訳は、「小倉山の峰の紅葉よ、お前に人の情が分かる心があるなら、もう一度天皇がおいでになるまで、散らずに待っていてくれないか」。小倉百人一首の歌です。

 この「小倉」とは、小倉山のことです。桂川を挟んで嵐山の向かいにある山で、東に広がる裾野が嵯峨野です。平安貴族たちは別荘を建て、歌を詠むなど優雅に暮らしていました。
 モミジの名所が多い嵯峨野。最初に訪れたのは、宝筺院(ほうきょういん)です。門をくぐるとすぐ色とりどりのモミジが目に飛び込んできました。曇っているせいか、白く柔らかい光がモミジを照らし、優しい色合いです。庭を貫く小道は、南朝の武将・楠木正行
(まさつら)と北朝の足利2代将軍・義詮の墓につながっていました。美しさの陰の幾多の歴史。散りゆくモミジは一層はかなく感じられました。
 続いては、常寂光寺。モミジはほとんど散り、空が良く見通せます。しかし、ここはその散り紅葉が有名なのです。地面はもちろん池までピンクのじゅうたんが敷かれたようでした。散った後のモミジにまで美を見出す風流ぶりに、感服しました。

 最後は松尾芭蕉の弟子、向井去来が晩年過ごした落柿舎(らくししゃ)です。わらぶき屋根の質素な草庵ですが、観光客でごった返す嵯峨野にあって、心落ち着く場所です。縁側に腰を下ろし、遠くの山を眺めながら、私も一句。
 「散る前に 一目見せたい 紅葉かな」・・・おそまつ!
 ふと口をついたのは、なぜか、あの百人一首の歌と似た心情でした。
写真(上から)宝筺院の紅葉とみとー/常寂光寺の散り紅葉/落柿舎と柿