Vol.54 金峯山寺で「祝・世界遺産」
04.7.23,24訪問/8.8掲載
 キリキリキリキリ……。夕暮れ、吉野山ではヒグラシの鈴のような音色が鳴り響きます。
 7月初め、日本で12件目の世界遺産となった「紀伊山地の霊場と参詣道」Vol.40参照。23日から、吉野・大峯のシンボル、金峯山寺
(きんぷせんじ)で記念イベントが始まりました。東大寺大仏殿に次ぐ大きさの蔵王堂(国宝)は、重厚な構えです。黒くすすけた柱には、幾多の困難が刻まれた歴史の重みを感じます。

 23日の夜は、蔵王堂の前に設けられた舞台で、能楽が催されました。演目は「谷行
(たにこう)」。修験道の開祖、役行者(えんのぎょうじゃ)が登場する大変珍しいものです。世界無形遺産に登録された能の美しさはもちろんですが、山伏修行の厳しさ、慈悲の心の大切さなど、修験道のエッセンスが詰まった物語でした。
 1年間、蔵王堂では秘仏の金剛蔵王権現立像を拝観できます。役行者が感得した蔵王権現は怒りの表情をしているのですが、なぜか私には優しいお顔に見えました。


 24日の夜は、ゴンチチの野外ライブ。雨上がりの土のにおいがプーンとわきたつ空気の中、ギターの音色が、時には優しく、時には鋭く、自由自在に響き渡ります。曲に合わせたかのように、蔵王堂の垂れ幕がふわっと舞い上がり、空には飛行機がライトを点滅させながらゆっくりと通り過ぎていきます。すべてが最高の演出でした。
 ライブの余韻が残る中、桜の花をかたどった灯りが、帰り道をほんのり照らしてくれます。吉野が788ヵ所の世界遺産の一つとなった喜びを改めてかみしめながら、この道をくだりました。
写真上から)金峯山寺に置かれた桜灯りとみとー/能の「谷行」/カラフルに照らされた蔵王堂