Vol.35 平安神宮の「桜源郷」
04.4.12訪問/4.15掲載
 ソメイヨシノが散り、若葉が芽吹く頃に、満開を迎える桜があります。平安神宮の八重紅枝垂れ桜です。

 大きな赤い鳥居をくぐり、大極殿で手を合わせた後、いよいよ庭園へと入っていきます。入り口の門をくぐった途端、空を覆うようなシダレザクラの天蓋と出会いました。薄桃色の天蓋の隙間から、薄い光が差し込み、まさに、ここは桜の園。その下をゆっくり進んでいきます。なんて美しい世界でしょう! 時折、空から降ってくるような花びらからは、はかないからこそ美しい、桜の醍醐味を感じます。この淡く優しい桜色に魅せられて、私の心も優しく穏やかになったような気がしました。
 庭園は南・西・中・東神苑の順に、4つの景色が眺められます。シダレザクラが美しいのは南と東です。特に東の庭園は、シダレザクラの御簾の向こうに、鏡のような池と中国風の建物、さらに背景には東山が広がり、桃源郷ならぬ桜源郷の世界です。完璧なまでに造り込まれた平安神宮の桜の世界は、これまで味わったことのない極上の空間でした。

 平安神宮は、明治時代に荒廃した京の町を蘇らせようと、平安遷都1100年を記念して建てられました。同様に、京都復興の原動力となった大事業が、近くにあります。琵琶湖疎水です。琵琶湖から京都にひかれた水は、水運・防火・水道など多くの利益をもたらし、日本初の水力発電所も建設されました。発電所と疎水の間は傾斜が急で、船を台車にのせて上下させるインクライン(傾斜鉄道)ができました。今でも2本のレールが残っています。ここもまた桜の名所です。
 街の復興という京都のもう一つの歴史を、満開の桜を通して知りました。
写真(上から)平安神宮のシダレザクラの天蓋とみとー
/平安神宮の大極殿/琵琶湖疎水のインクライン