Vol.14 志賀直哉の文学的空間
 03.12.27訪問/1.18掲載
 奈良のシンボル・春日山は、粉砂糖をかけたように、うっすら白く薄化粧。この春日山に程近い高台の閑静な住宅地に、文豪・志賀直哉の旧居があります。

 瓦屋根の白壁で囲まれ、いかにも有名人の邸宅といった雰囲気。書斎は、光の影響を受けず執筆できるよう、北東の角部屋に位置し、庭とその向こうに広がる春日山が見渡せます。その風景は、窓枠で切り取られ、絵画のようです。直哉は、ここで唯一の長編「暗夜行路」を書き上げました。奈良文化の香りに浸りつつ、静かで落ち着いた空間の中で小説を書く・・・志賀直哉でなくとも、想像力がかきたてられます。
 家の南側には、子供と妻の部屋、そしてサロンがあります。家族や客人を日当たりのいい場所に置くという、家族・友人を愛する直哉の気持ちが表れています。内装は、アーチ型にしなった木をそのままデザインとして採り入れたり、サンルーフをつくるなど、和と洋をうまく組み合わせた、おしゃれな部屋の数々を見ることができました。上品で繊細な志賀直哉の文章と同様、この家は、彼の感性とこだわりが随所に見られる、一つの作品でした。

 ここから静かな林をぬけて新薬師寺に向かいました。「新」とは、「あたらしい」ではなく、「あらたかな」という意味です。本堂には、日本最古で最大の十二神将(国宝)が円を描くように並べられています。烈火のごとく怒るもの、物思いにふけるものなど、表情は様々で飽きることはありません。しかし、最近作られたステンドグラスが妙にミスマッチで、異様な雰囲気がありました。そう感じたのは私だけでしょうか?
写真(上から)みとーと志賀直哉旧居/旧居の書斎/新薬師寺